黒板の落とし穴と色
はじめに
あなたは黒板で図や文字を書いたりプリントを作る際、その「色」に気を使っているでしょうか?
色は学習における重要な要素であると同時に、十分気を付けないと、特定の生徒だけ理解できない図になっていた、と言うこともあり得るのです。
今回は特に後者、色の使い方のリスクと対策についてお勉強します。
カラーユニバーサルデザインについて
最近知名度を上げてきたこの言葉、ご存知でしょうか?
ご存知の方は、恐らく今回の記事は見るまでもないかと思いますが、非常に重要な要素なので、あえて2つ目の記事として取り上げさせてもらいました。
さて、下記の写真、緑、黄、赤それぞれあるのですが、どれが緑のピーマンかわかるでしょうか?
図1.色覚特性の見え方
・・・わかりませんよね。
特に右と左がほとんど区別がつきません。
でも、実際にこのような見え方をする人が結構な割合でいるのです。
※茶色っぽく見えるとは限らないようです。色の区別が難しい、と言う理解で読んでください。
このような方々は「色覚特性」※と呼ばれ、日本人では男性の約5%、女性の0.2%がこのように見えているそうです。
※色盲、色弱、色覚異常、色覚障害などの呼称もありますが、差別的表現ととらえられるため、最近では色覚特性という呼称が広まっているようです。
また、程度の差によっては多少の区別がつくこともあるそうです。
40人のクラスだとしても、男子20人中1人はこれに該当する可能性があるので、クラス内に誰か1人は色覚特性を持つ人がいると考えるべきでしょう。
さて、先ほどの画像に戻りますが、もともとの画像はこれです。
図2.元の画像
右が緑で、左が赤でした。緑と赤の区別がつかなかったことになります。
・・・さて、質問です。
本記事をご覧の皆さまは、普段重要な文字を書くとき、黒板に何色のチョークを使っているでしょうか?
緑色の黒板に、赤色のチョークを使っていないでしょうか?
少なくとも私の学生時代、多くの先生はそのような色を使っていました。
そして、そのたびに「赤が見えないからやめてくれ」と言っていた友人もいました。
当時は色覚特性がそこまで認知されておらず、友人もその認識がなかったようですが、その友人はおそらく図1のような見え方をしていたのでしょう。
先生は重要だからと思って色を分けたのに、生徒は重要な部分が一切見えなくなる。
これでは、学習意欲も効率も落ちてしまいますね。
物理の実験で、青い配線が~とか、赤い配線が~と言われてもわかんなくて、回線をショートさせる危険もあります。
では、どうすればよいのでしょうか?
その1つの解決策が、カラーユニバーサルデザインです。
長くなるのでここでは省略しますが、下記サイトなどで、色覚特性を持つ方でも見分けがつきやすい配色を紹介していますので、これらの色を使うのが有効です。
では、もうすこし授業に踏み込んで考えると、どうすればよいのでしょうか?
黄色は白と区別がつきにくい。
緑は黒板の色とかぶる。
青は暗めでよく見えない。
茶色やその他の色なんて置いてるとこは少ない。
前回の記事でも書きましたが、そこであきらめるのはまだ早いですね。
ぱっと思いつく限り2つ、調べてみるとさらにもう1つ出てきました。
①文字や書き方を工夫する
色分けするのではなく、丸で囲ったりする、大きく書くなど、他の目立たせ方を考える。
印刷物やスライドなどなら、斜体やフォントの種類を変えるなども有効でしょう。
②複数の色を同時に使う
これも①の派生ですが、赤字などの注意を要する色で書いた場所は、上から白や他の色でなぞってあげましょう。
それだけで文字は太字に見えて重要なことがわかりますし、色味が混ざって別な色にも見えてきます。
③蛍光チョークを使う
「黒板 赤チョーク 見えない」で検索したところ、蛍光チョークなるものが出てきました。
色覚特性を持つ方でもよく見える色なのだとか。
明度を調整するなどの工夫がされているのでしょうか。
上記ブログで紹介されている羽衣文具さんは残念ながら今は無いようですが、メーカーによっては6色300~400円くらいで販売されているので、個人的に買っておくと良いかと思います。
そういえば、私が中学生のころ、カラフルなチョークを自前で持ってくる先生がいて、ちょっとかっこいいなと思ってましたが、当時からその先生はこれを意識していたのでしょうか。。
色覚特性を持つ生徒の付き合い方
色覚特性を持つ方に対する配慮が重要なことは上記で理解いただけたかと思いますが、よほど教師としての腕に自信のある方を除き、授業中に色覚特性の人を特定するようなことは、絶対にやめてください。
色覚特性の話題を出すこと自体も、少し注意すべきです。
中学生・高校生は特に、非常に多感な時期であり、自分と少しでも異なるものを排除しようとする、いわゆる「いじめ」が起きやすい時期でもあります。
そんな中で上記のようなクラスメイトを見つけたらどうなるでしょう。
自分自身は気にしなかったとしても、「あいつは赤と緑の区別がつかないんだぜー」とか、「何でも茶色にしか見えないんだってよ」とか、一部誤った解釈も交えて悪口の材料にされる可能性は非常に高いです。
最悪の場合、「自分は障害者なんだ」と誤った解釈をしてしまい、その後の人生にまで大きな影を落とすことになりかねません。
ある程度の修羅場をくぐってきたベテラン教師の方や、それに近い経験をされた方であれば丸く収めることもできるかもしれませんが、上記のリスクや責任を自身で負えないのであれば、あえて特定はしないでおくか、気になる子だけ個別に確認できるタイミングを見計らって確認する程度にしておいてください。
ただ、矛盾するようですが、上記リスクをカバーできるだけの教師になった暁には、その疑いのある子を見逃さず、色覚特性の話をしてあげてほしいと思います。
2016年現在、これに気付かないまま社会人になり、30歳まで自分でも理由がわからないまま企画書の色が判別できず、苦労をしてきたという方を何名か見かけます。
春の写生大会で真っ赤に紅葉した木々を描いて、みんなから後ろ指を指された子もいます。
今後避けられない、一生付き合っていく問題については、目をそらすことなく、早めに自覚してもらい、その対策を一緒に考えていけるような先生になってもらえれば、と思うのです。